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プラスチックは、生産が本格化した1950年代以降、私たちの生活の中で広く普及してきました。軽量で加工しやすく大量生産に適したプラスチックは優れた実用性があるため、さまざまな産業分野に革命をもたらし、生活の利便性を向上させてきました。周囲を見渡してもプラスチックのない場面など想像できないほど、私たちの生活に必要不可欠な素材といえるでしょう。
現在、世界中で生産されるプラスチックは年間約4億トンといわれています。私たちの生活の中でプラスチックは、さまざまな役割を果たしています。特に食品の梱包、包装に使われるプラスチックは、衛生面の向上に大きく貢献するものです。しかし、全てのプラスチック製品の約4割を占めるこれらの包装材やレジ袋は、購入後すぐに必要がなくなる「使い捨て」のものです。こうした「捨てられること」が前提のプラスチックは、残念ながらポイ捨てされることも多い上に、汚れているなどの理由でリサイクルも難しく、焼却処分すればCO2が発生するなど、私たちが暮らす環境そのものを汚染する一因となっているのです。
全世界で、これまで生産されたプラスチックの総量は83億トン、そのうち、廃棄されたものは63億トンにのぼり、リサイクルされたものはたったの9%しかありません。そして毎年、内陸部から800万トン以上のプラスチックごみが海に流出しているといわれています(環境省「令和元年環境白書」<外部リンク>から引用)。
これらのプラスチックごみは、自然に分解されることはほとんどなく、私たちが何気なく使っているレジ袋も例外ではありません。また、プラスチックごみは紫外線や波の力でどんどん劣化し、どんどん細かくなっていきます。とくに長さが5mm以下となったものをマイクロプラスチックと呼びますが、その大半は陸域から川を通じて海へと流れ出したものであることが国連などの調査によって明らかになっています。海鳥や魚からプランクトンにいたるまで、多くの海や川の生き物が大小さまざまなプラスチックをエサと間違えて飲み込んでしまったり、知らず知らずのうちに体内に取り込んでいることが世界各地で報告されています。たとえば、日本でも東京湾のカタクチイワシの7割から、琵琶湖のワカサギの4割からマイクロプラスチックが見つかっています。さらに、日本人を含むヒトの便からもプラスチックが見つかっており、健康被害のリスクも指摘されています。ほかにも、船の航行への障害となったり、観光や漁業、沿岸域の居住環境へも深刻な影響をおよぼすなど、人類の経済活動にとってもすでに現実のものとなっています。
海洋プラスチックによる汚染は、地球規模の環境問題として対策も急速に進んでいます。2016年5月のG7伊勢志摩サミットの首脳宣言では、「陸域を発生源とする海洋ごみ、特にプラスチックの発生抑制および削減に寄与することも認識しつつ、海洋ごみに対処すること」が前年に続いて確認されました。翌2017年7月のG20ハンブルグサミットでは「海洋ごみに対するG20行動計画」の立ち上げについて、各国が合意しました。その後も、2018年6月には、G7シャルルボワサミットでの海洋環境の保全に関する「健全な海洋および強靭な沿岸部コミュニティのためのシャルルボワ・ブループリント」の承認や、日中韓三カ国環境大臣会合(TEMM20)においてマイクロプラスチックを含む海洋ごみ対策などについて意見交換されるなど、海洋プラスチック問題の解決に向けた国際的な取組が進みつつあります。
我が国においても、2018年6月15日に海岸漂着物処理推進法が改正され、3R(Reuse-Recycle-Reduce)の推進による海洋ごみの発生抑制やマイクロプラスチック対策、国際的な連携を進めることが明文化されました。また、2018年6月19日に閣議決定された「第4次循環型社会形成推進基本計画」では、プラスチック資源循環戦略を策定し、新たな施策を進めていくこととされました。政府は、2012年度より海岸漂着物など地域対策推進事業を実施しており、都道府県や市町村が実施する海洋ごみに関する地域計画の策定、海洋ごみの回収・処理、発生抑制に関する事業に対し、補助金による支援が行われています。このように、海洋プラスチック問題に真正面から取り組む動きが、世界中でも国内でも加速しています。
プラスチック問題は、とても大きな問題です。解決には、国レベルでの施策や連携、地方公共団体の取組、企業や市民レベルで意識ある行動を一つのムーブメントとして進めていく必要があります。私たちの生活からプラスチックを全てなくすことは現実的には難しいかもしれません。しかし、「使い捨て」を見直し、プラスチックの大量生産、大量消費、大量廃棄をあらためなければ、やがては私たち自身の暮らしや健康が脅かされることにもなります。
海に流れ出すプラスチックごみを減らすためには、ポイ捨てを徹底的に止め、河川や海岸を清掃することが必要なのは言うまでもありません。しかし、それだけでは不十分です。微細なマイクロプラスチックは、処理システムの網の目をくぐり抜け流れ出し、いつまでも海を漂い続けることが指摘されています。つまり、海洋プラスチックごみの元となる使い捨てプラスチックそのものを減らしていくことが欠かせません。例えばマイバッグやマイボトルを持ち歩くことが社会全体の習慣として定着することで、レジ袋やペットボトルの使用も減らしていくことができるのです。
これまでのプラスチックに大きく依存していた私たちの暮らしを見直すとともに、プラスチックに依存しすぎない社会を作り上げて、未来に生きる世代が安心して暮らせる環境を引き継ぐことは、現在を生きる私たちの世代の責任です。