本文
亀岡市人権教育・啓発推進指針
~人権文化の息づくまち・かめおかをめざして~
(提言)
平成14年12月19日
亀岡市人権教育・啓発推進指針策定委員会
目次
(1)指針策定の意義~21世紀を人権の世紀
(2)亀岡市における人権教育・啓発の現状と課題
- これまでの経緯
- 現在行われている全市規模での主な取組み
- 課題
(3)人権教育・啓発の基本的あり方
- 人権教育・啓発の目的
- 人権教育・啓発をすすめる視点
(4)人権教育・啓発の充実のための方策
- 人権教育・啓発の内容に関わる改善方策
- 人権教育・啓発の方法に関わる改善方策
- 人権侵害の相談と救済
資料
- 亀岡市人権教育・啓発推進指針策定委員会委員名簿
- 亀岡市人権教育・啓発推進指針策定委員会審議経過
亀岡市人権教育・啓発推進指針
~人権文化の息づくまち・かめおかをめざして~
(1)指針策定の意義~21世紀を人権の世紀に
20世紀、二度にわたる悲惨な世界大戦を経験した人類は、平和がいかにかけがえのないものであるかを学んだ。この反省の上にたって、1948年(昭和23年)12月の国連総会において世界人権宣言が採択された。我が国においても、1946年(昭和21年)11月公布された日本国憲法において基本的人権の尊重が謳われた。
しかしながら、その後も、国際社会では、民族や宗教の違いなどによる紛争や対立の中で人権問題が深刻化している。我が国においては、我が国固有の人権問題である同和問題について、1965年(昭和40年)8月の同和対策審議会の答申(以下「同対審答申」という。)を受けて、その早期解決に向けた様々な取組みがされてきた。しかし今日でも、結婚差別や身元調査事件の発生などにみられるように同和地区住民に対する根強い差別意識や偏見は依然として残存しており、また、女性、障害者、外国人などへの先入観や偏見などの問題もある。さらに、国際化、情報化、少子・高齢化などの社会構造の変化に伴い、人権に関する新たな問題も生じている。
こうした情勢の下、21世紀に「人権という普遍的な文化」を構築していくため、1995年(平成7年)から2004年(平成16年)までを「人権教育のための国連10年」と定めることが1994年(平成6年)12月の国連総会において採択され、その行動計画が示された。我が国においても、国連総会の決議を受け、1997年(平成9年)7月「『人権教育のための国連10年』に関する国内行動計画」が取りまとめられた。さらに、2000年(平成12年)12月には、社会的身分、門地、性別などによる不当な差別や人権侵害を防止することを目的とした「人権教育および人権啓発の推進に関する法律」が施行された。
こうした国内外における人権尊重の取組みに学びつつ、本市においても、これまでの取組みを点検し、「人権文化の息づくまち・かめおか」を築くため、人権教育・啓発の推進指針を策定することが求められている。
こうした状況を踏まえ、当委員会は、亀岡市人権啓発推進協議会から、今後の人権教育・啓発の推進のあり方について、審議し、提言することを求められた。当委員会は、限られた時間ではあったが、5回の会議での審議のうえ、ここに提言をまとめた。
この提言の趣旨が十分に活かされ、前述したように、「人権文化の息づくまち・かめおか」を築くための積極的な人権教育・啓発活動が展開されることを切望する。
なお、当委員会では、社会教育および社会啓発としての人権教育・啓発を主な対象として審議した。学校などにおける人権教育については、教育などの活動全体に人権教育を適切に位置付け、すべての幼児児童生徒の教育保障とともに、その発達段階に応じながら、人権尊重の意識を高め、人権尊重の態度を実践できるよう、計画的な人権教育が推進されることを期待する。
(2)亀岡市における人権教育・啓発の現状と課題
1)これまでの経緯
これまで本市において取り組まれた人権教育・啓発は、その多くが同和問題に関するものであった。それは、同対審答申でも指摘されたように、同和問題は「市民的権利と自由が完全に保障されていないという、もっとも深刻にして重大な社会問題」であるという認識のもと、重要な教育課題、啓発課題として取り組まれてきたのである。
同和問題についての理解と認識を深める取組みとして、昭和40年代後半から50年代にかけて各中学校区ブロックで結成された同和教育推進協議会(以下「同推協」という。)は、地域や職場などできめ細かい研修会を実施するなど大きな役割を果たしてきた。また、1981年(昭和56年)4月、同推協をはじめ市内の主な団体・事業所などで組織された市全体の亀岡市同和対策推進連絡協議会(現在の亀岡市人権啓発推進協議会、以下「人推協」という。)が結成された。さらに、1982年(昭和57年)には、社会同和教育推進委員(現在の人権教育啓発指導員)が組織され、市全体の統一した取組みを推進する体制が整い、以後、行政と連携した取組みが進められてきた。
1988年(昭和63年)3月、本市は生涯学習都市宣言を行い、その基本的方向を示した生涯学習都市構想は、人権学習を生涯学習の重要な柱と位置づけた。
1996年(平成8年)5月、国の地域改善対策協議会は、その意見具申の中で、「これまでの同和教育や啓発活動の中で積み上げられてきた成果とこれまでの手法への評価を踏まえ、全ての人の基本的人権を尊重していくための人権教育、人権啓発として発展的に再構築すべき」と提言した。
本市においても、同年7月「亀岡市同和問題の到達目標を定める懇話会」から答申が出された。答申では、同和問題に関わる啓発の課題として、生涯学習としての人権啓発の位置付けときめ細かい啓発活動の推進、啓発を進める市民リーダーの育成とそのネットワーク化、啓発パンフレットの発行・配布、同和地区内外の交流と連携の推進、啓発活動の効果測定、同和対策推進連絡協議会組織の活性化、広範囲の分野からの社会同和教育指導者の組織化などの指摘がされた。1997年(平成9年)以降、同和問題の解決に向けた教育・啓発の取組みをすべての人権問題を視野に入れた人権教育・啓発の取組みとして進められてきている。
2)現在行われている全市規模での主な取組み(個別の人権課題のものを除く)
1.人権教育・人権教育講座の開催(平成2年から実施、年4回)
- 「ワークショップで学ぶ人権セミナー」の開催(平成11年から実施、年8回)
- 人権教育指導者研修会の開催(平成9年から実施、年2回)
- 「出会い・発見・共生人権を考える 亀岡市女性集会」の開催(昭和58年から実施、毎年12月)
- 「同推協」人権研修会の開催(平成13年度延べ141回)
- 企業社員人権教育講座の開催(昭和63年から実施、毎年2月)
- 人権教育啓発指導員の講師派遣(昭和57年から実施、平成13年度延べ129人派遣)
- 学習教材(啓発映画・ビデオ)の貸出し(昭和57年から実施、平成13年度延べ130本)
2.人権啓発・啓発紙「きずな」の発行(平成10年から実施、年2回)
- 啓発冊子の発行(平成8年から実施、年1回)
- 「ヒューマンフェスタ」の開催(平成2年から実施、毎年11月)
- 人権啓発作品の募集(昭和63年から実施、毎年6~7月)
- 街頭啓発活動(毎年8月と12月)
3)課題
1.人権意識の多様化などに応える魅力ある学習機会・プログラムの必要性
2000年(平成12年)12月の市民意識調査では、人権に関する研修会に参加したことがない市民の割合が26.5%であり、その一方で6回以上参加している市民の割合が23.1%である。人々の人権意識は、このような学習歴や年齢、性別、地域などによって多様である。
人権意識の多様化や人権学習への関心・認識度に応じて学習者の学習の深化を保障する多様な学習機会の設定が必要である。また、人権に関する研修会に参加したことがない者が若い年代に多く、魅力ある学習プログラムを用意するなどの工夫が必要である。
2.主体的な参加を促す教育・啓発の必要性
これまで、差別や人権侵害などの人権問題を正しく理解する・させることが重視され、その結果、人権学習は、知識注入型で、堅苦しいものというイメージを与えてきた。一人ひとりが自らの人権を知り、エンパワメントし、人権の主体者であることを実感できる学習や、学習者が主体となるような学習が求められてきている。こうした目的をもって、近年、参加型学習が提起され、本市においても実践が始まっている。
3.市民の人権学習につなぐ啓発の必要性
本市における市民向けの人権学習教材として、近年、人権啓発冊子が定期的に発行され、また、人権広報紙「きずな」も発行されている。しかし、市民意識調査では、啓発冊子や啓発紙を「読んだことはない」「知らない」とする人が57.5%もある。配布にとどまり、市民の人権学習に効果的に活かされていないことから、啓発冊子の活用方法などを再検討していかなければならない。
4.啓発実施主体間の連携および人権教育・啓発機関と関係機関の連携の必要性
本市では、市全体の人権啓発組織として人推協があり、地域には、およそ中学校区単位の同推協組織がある。さらに、同推協には自治会やPTAなど数多くの団体が加入している。そのような組織独自の取組みを評価しなければならないが、同じ話の繰り返しとなって「またか」の印象を与えることもある。市民意識調査では、人権に関する研修会に参加しての感想・印象として、「同じ話のくりかえしが多い」とする意見が31.0%ある。関係者が人権教育・啓発の課題や取組み方について、意見交流や情報交換ができるシステムを構築し、連携していくことが必要である。
さらに、人権教育・啓発は、個別の人権問題(女性、子ども、高齢者、障害者、同和問題、外国人など)の課題解決のための視点を明確にすることが重要であり、関係機関との密接な連携のもとにすすめる必要がある。
(3)人権教育・啓発の基本的あり方
1)人権教育・啓発の目的
人権とは、人間の尊厳に基づいて、すべての人が生まれながらにして持っている、人間が人間らしく生きていくために必要な権利をいう。人権文化の息づく社会とは、そうした人権が日常生活において尊重され、一人ひとりの個性が相互に大切にされることがあたりまえとされる社会のことである。
人権教育・啓発は、第一義的には人権尊重についての理解を深めるための教育・啓発である。しかし、人権についての理解を深めるだけでは、人権を尊重し、人権文化を築くことにはつながらない。日常生活の中で人権問題に気づき、解決していく態度と実践力を培うことが人権教育・啓発の大きな目的である。
2)人権教育・啓発をすすめる視点
1.自己の人権を認識し、他者の人権を尊重する人権意識
人権は、すべての人がもっている人間が人間らしく生きていくために必要な権利である。その意味で人権問題はすべての人の問題である。しかし、これまで、人権を、差別や人権侵害をされている他者の問題としてとらえる傾向があった。自己の人権についての認識を深め、自分自身を大切にし、自分らしく生きることと他者のそれをつなげていく視点を大切にすることが必要である。
2.学びつつ行動する人づくり
人権が尊重される社会を実現するには、人権について学び、気づき、行動することが必要である。これまで知識理解中心の傾向があったが、学びの中で豊かな人権感覚を養い、身近な人権問題の解決に向けて実践できる態度やスキル(技能)を身につけることが大切である。
3.人権尊重の精神に根ざした地域づくり
人権問題は個人の問題だけではない。人権尊重の精神を個人レベルから地域レベルに根づかせることが、地域における人権文化を築くことになる。そのためには、これまでの行政の取組みとともに、市民の「参画と共働」を大切にした取組みをより支援し、人権と地域社会のあり方を結びつけてとらえていくことが必要となる。
4.違いを認め尊重しあい、共に生きる社会づくり
我が国の社会においては、「周りと同じ」であることを優先し、違った環境や条件にある人、違った考えや行為などを異質なものとして排除する意識が差別や偏見をもたらす一因となってきた。一人ひとりの個性を互いに尊重し、様々な考え方や生活・文化など多様性を認め合うことを大切にしなければならない。
5.学びの主体は市民自身
人権学習は、自らの自己実現をめざす生涯学習の課題である。誰もが、主体的に参加し、体験を共有し、学び合いながら自分たちで創りあげていく、そうしたことを通じて自己実現と豊かな人間関係が築けるようにしなければならない。
(4)人権教育・啓発の充実のための方策
1)人権教育・啓発の内容に関わる改善方策
- 人権について学ぼうとする市民の意欲を引き出す工夫とともに、その意欲に積極的に応えられる学習機会を充実すること。また、国内外の人権に関わる条約や法律などを分かりやすく工夫して普およするなど、人権の持つ意味や内容について市民が学習をさらに深められるようにすること。
- 人権の概念や人権尊重の意味・内容などについて、市民の生活に即して、例えば「自分を大切にすること」「個人の意見や生き方を認め尊重すること」「社会の中ではともに助け合い、心豊かにすごせること」など具体的に表現すること。
- 人権教育・啓発を推進するにあたっては、知識や心情を学習するにとどまらず、人権感覚に支えられた行動をするためのスキル(技能)を学習できるプログラムを設定すること。さらに、女性、子ども、高齢者および障害者などのエンパワメントを支援する学習の工夫をすること。
- 市民の人権に直接関わる市職員などが常に人権に敏感な視点をもって、それぞれの業務において適切な対応が行えるよう、各研修における人権教育を充実させること。
- 学校教育、社会教育および家庭教育の推進において、子どもの自尊感情を育てる人権教育の取組みを充実させること。また、子育て支援の中でも、子育ての知識やスキル(技能)とともに子どもの人権についてのきめ細かな教育・啓発を行うこと。
2)人権教育・啓発の方法に関わる改善方策
- 人権教育・啓発の推進は基本的には行政の役割であるが、市民および市民団体の主体的な取組みに対しても支援すること。人権教育・啓発の課題や取組み方について、人権教育啓発指導員を含めて、人推協や同推協などと意見交流や情報交換できる場の設定や人権に関する情報提供を定期的に行うこと。
- 人権教育・啓発の推進にあたっては、個別の人権課題(女性、子ども、高齢者、障害者、同和問題、外国人など)に係る行政の施策との関連性を考慮すること。そのため、関係機関との連携を密にしてすすめること。
- 地域における人権教育・啓発活動は、その自主性を尊重しつつ、日常生活に根ざした、より幅広い学習テーマの設定や学習方法の工夫を行い、地域における生涯学習の場となるよう検討すること。
- 啓発冊子・啓発紙は、広く市民に配布するものと、研修会における学習教材として活用するものなど、目的に照らした作成と活用を行うこと。さらに、市ホームページに人権に関する情報を掲載するなど多様な媒体の活用を図ること。
- 文化センターなどは、地域における生涯学習および人権啓発の発信の拠点として、その取組みの充実を図るとともに、同推協活動との連携を密にすること。
- 人権教育・啓発指導者の養成を幅広い層から人材を得て行うこと。特に、参加型学習のファシリテーター(促進者)の養成を図るとともに、個別の人権課題に係る施策の担当者にも協力を求めること。また、人権教育啓発指導員の名称の見直しを検討すること。
- 人権教育・啓発をはじめ人権に関する施策を市民が利用しやすいよう、また、取組み内容がわかるよう広報の工夫を図ること。
- 人権教育・啓発が所定の目的を達成したのか、その取組みの評価を行なうことは重要なことである。そのため、定期的な市民人権意識調査の実施や審議会などにおける分析を行なうこと。
3)人権侵害の相談と救済
人権教育・啓発とともに人権侵害に対する相談・救済は、人権擁護の両輪である。人権に関わる相談は、本市では、人権擁護委員による人権相談、家庭児童相談員による児童相談、「教育研究所」の教育相談、「働く女性の家」による女性の悩みごと相談、「身体障害者福祉センター」の障害者相談、市民生活係の日常的な市民相談などがある。それぞれの相談機関や救済機関などとの連携、相談案件のフォロー、担当者がカウンセリング・マインドを身につけるなどの資質向上、相談窓口の市民へのPRの工夫など、市民が身近に相談しやすい体制の充実を図る必要がある。
亀岡市人権教育・啓発推進指針策定委員会委員名簿
委員長 |
廣富 靖海 |
人権教育啓発指導員 |
---|---|---|
副委員長 |
稲田 育子 |
人権教育啓発指導員 |
委員 |
飯田 高子 |
人権擁護委員 |
委員 |
塩見 昭夫 |
人権擁護委員 |
委員 |
吉村 享 |
京都学園大学教授 |
委員 |
伊藤 悦子 |
京都教育大学助教授 |
委員 |
大内常雄 |
人権教育啓発指導員 |
委員 |
末永 礼子 |
人権教育啓発指導員 |
事務局長 |
川勝 雅 |
亀岡市企画管理部理事兼生涯学習室長 |
幹事 |
森 幸雄 |
亀岡市介護保険課長 |
幹事 |
今西 猛 |
亀岡市福祉推進課長 |
幹事 |
岩井 三義 |
亀岡市教育委員会学校教育課長 |
幹事 |
山内 照幸 |
亀岡市教育委員会人権教育課長 |
幹事 |
武田 学 |
亀岡市人権啓発課長 |
事務局 |
高屋 安男 |
亀岡市人権啓発課課長補佐兼啓発振興係長 |
事務局 |
垣見 昌克 |
亀岡市人権啓発課啓発振興係主任 |
亀岡市人権教育・啓発推進指針策定委員会審議経過
第1回 |
平成14年8月5日(月曜日) |
委嘱状交付 |
---|---|---|
委員長・副委員長の選任 |
||
審議事項および審議スケジュールの確認 |
||
人権教育・啓発の現状と課題について審議 |
||
第2回 |
平成14年9月3日(火曜日) |
人権教育・啓発の現状と課題について審議 |
人権教育・啓発の基本的あり方について審議 |
||
第3回 |
平成14年10月7日(月曜日) |
指針策定の意義について審議 |
人権教育・啓発の基本的あり方について審議 |
||
人権教育・啓発の充実のための方策について審議 |
||
第4回 |
平成14年11月7日(木曜日) |
提言「人権教育・啓発推進指針」(案)について審議 |
第5回 |
平成14年12月9日(月曜日) |
提言「人権教育・啓発推進指針」について確認 |
|
平成14年12月19日(木曜日) |
「人権教育・啓発推進指針」(提言)を亀岡市人権啓発推進協議会会長に提出 |